女は海を見たいといい、近くの海岸へ出かけた。
眼の前には大きく、碧い太平洋が広がっている。
女は眼を凝らして、
その海の先の、先の、ずーっと向こうを見ていた。
そこには彼女の思い出のつまった国があるのだという。
男はふと視線を落とし、砂浜にできた影を見た。
カメラを取り出し、記念写真を撮ろうという。
影は思い出のものも、出来事も、
人も、暮らしも、ぜんぶのみこんでいると
男はその時初めて、何故か強く思った。
そんなふたりの背のはるか上、青空の彼方からは
いつまでも初夏の陽光が降り注ぎつづけていた。
One of 99ers/九十九里・一松海岸 2004/06

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